店主、幽霊と遭遇(したと思った)夜:南区の理容院で起きた、ちょっと不思議な深夜事件
ある夏の夜。南区の住宅街は蒸し暑く、虫の声だけが響いていた。店主はその日、閉店後に店の片付けをしていた。ヨレヨレタオルを畳み、鏡を拭き、「今日もよう働いたわい」とつぶやきながら、そろそろ帰ろうとしていた。
店主、幽霊と遭遇(したと思った)夜
そのとき
店の奥から、かすかな音がした。
カサカサ
店主は眉をひそめた。
(ネズミか?
いや、うちはそんなに食べ物置いとらんしの)
しかし、音は続く。
カサカサ
スー
店主の背筋に、じわりと汗がにじんだ。
鏡に何かが映った
店主はゆっくりと鏡の前に立ち、
後ろを確認しようとした。
すると
鏡の端に、白い影がふわっと映った。
店主は固まった。
(出たんか?
わしの理容院にも、ついに)
71歳の店主でも、さすがに心臓がドキッとした。
影はゆっくりと動き、
まるで店主のほうへ近づいてくるように見える。
店主は思わず声を出した。
「だ、誰じゃ?」
返事はない。
勇気を出して声をかける店主
店主はハサミを握りしめ、
(幽霊でも髪くらい切ったるわい)
と腹をくくり、影のほうへ歩いた。
「お、お前さん何しに来たんじゃ?」
影はピタッと止まった。
店主はさらに一歩近づいた。
その瞬間
影がこちらに向かって動いた。
店主は叫んだ。
「ひえぇぇぇぇぇ!」
正体はまさかのアレ
影が近づいてきて、
店主の足元にコトンとぶつかった。
店主は恐る恐る見下ろした。
そこにいたのは
白いスーパーのビニール袋。
店主はしばらく固まった後、
ゆっくりと腰を下ろした。
「風かい」
そう、店の裏口が少し開いていて、
風が吹き込み、ビニール袋が店内を漂っていただけだった。
鏡に映った白い影は、
そのビニール袋がふわふわ揺れていた姿だった。
しかし、事件はまだ終わらない
店主がホッとした瞬間、
店の外から声がした。
「すみませーん!まだやっとりますかー!」
店主はビクッとした。
(今度こそ幽霊か?)
しかしドアを開けると、
そこには酔っぱらった近所のおじさんが立っていた。
「髪切ってほしいんじゃけど〜」
店主は深いため息をついた。
「兄ちゃん今は深夜じゃ。
幽霊より怖いわい」
おじさんは笑いながら帰っていった。
そして店主は今も語る
「あの夜はほんまに怖かったわい。
ビニール袋に負けたんは、あれが最初で最後じゃ」
そう言いながら笑う店主の顔は、
どこか誇らしげだ。
南区の小さな理容院には、
今日もそんなちょっと不思議で、ちょっと笑える物語が静かに積み重なっている。

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