店主、まさかの逆カット事件:南区の理容院で起きた、忘れられない不思議な依頼
ある日の午後。店主はいつものように、干したばかりのヨレヨレタオルを椅子に置き、「今日は静かじゃのう」とつぶやきながら、店の前を掃いていた。そこへ、ひとりの青年が店に入ってきた。(このお話しはフィクションで、登場する場所・人物ともに関係はありません ^^)
店主、まさかの逆カット事件
どこか緊張した面持ちで、しかし目はキラキラしている。
「すみませんお願いがあるんです」
店主は鋭い目つきで青年を見つめた。
「どうしたんじゃ。髪か?」
青年は首を振った。
「いえ今日は僕が、店主さんの髪を切らせてほしいんです!」
店主は固まった。
「わしの髪を?」
店主は71歳の今でも髪はしっかりしているが、若い頃からずっと自分で整えてきた。
他人に切らせたことなど、一度もない。
「兄ちゃん、なんでわしの髪なんじゃ」
青年は深呼吸して言った。
「僕は理容師の専門学校に通ってるんです。
でも、どうしても本物の現場の人の髪を切ってみたくて
学校の先生に相談したら、
本物の職人の頭を切れたら一人前じゃ
って言われて!」
店主は思った。
(その先生、えらい無茶を言うのう)
店主、まさかの承諾
青年は必死だった。
「店主さんの髪を切らせてもらえたら一生の自信になります!」
店主は腕を組み、しばらく考えた。
そして、ふっと笑った。
「ええじゃろ。切ってみんさい」
青年の顔がパッと明るくなった。
緊張で震える青年、余裕の店主。
青年はハサミを持つ手が震えている。
「す、すみません緊張して」
店主は椅子に座りながら言った。
「兄ちゃん、落ち着け。
わしは逃げんし、髪はまた伸びるけえ」
青年は深呼吸し、慎重にハサミを入れた。
チョキチョキ
店主は鏡越しに青年を見て、
(わしの修行時代よりは上手いのう)
と心の中でつぶやいた。
しかし、事件は起きた
青年が後ろ髪を整えていたとき
ハサミがカチッと変な音を立てた。
青年の顔が青ざめた。
「す、すみません!
ちょっとだけ切りすぎました!」
店主は鏡を見て、後頭部に小さな段差ができているのを確認した。
しかし店主は笑った。
「兄ちゃん、これくらいどうってことないわい。
わしの若い頃なんか、前髪が左右で2cm違う客を帰したこともあるけえ」
青年は涙目になった。
「店主さんありがとうございます!」
仕上がりはちょっとだけ冒険した店主
最終的に、青年は見事に整え直し、
店主の髪はいつもより少しだけ若々しい仕上がりになった。
青年は深々と頭を下げた。
「本当にありがとうございました!
今日のこと、一生忘れません!」
店主は照れくさそうに言った。
「ほんなら、また練習したくなったら来んさい。
ただし、わしの頭は年に一回だけじゃ」
青年は笑いながら店を出ていった。
そして店主は今も言う。
「あの兄ちゃん、今頃立派な理容師になっとるんかのう」
店主の髪を切った唯一の人物。
それは、南区の小さな理容院に現れた、
夢と緊張で震える青年だった。
そして店主は今日も、
自分の髪は自分で整えながら、
誰かの髪と心をそっと整えている。

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