店主、迷える子どもに寄り添う:南区の小さな理容院で起きた、忘れられないカットの日
ある日の午後。南区の理容院は、いつものようにゆったりとした空気が流れていた。店主はヨレヨレタオルを椅子に置き、「今日は静かじゃのう」とつぶやきながら、鏡を拭いていた。そこへ、少し疲れた表情のお母さんと、落ち着かず店内をキョロキョロ見回す小さな男の子が入ってきた。(このお話しはフィクションで、登場する場所・人物ともに関係はありません ^^)
店主、迷える子どもに寄り添う
「すみませんこの子、じっとできなくて」
お母さんは申し訳なさそうに言った。
「どこのお店でも断られてしまって
今日もダメなら、もうどうしたらいいか」
男の子はすでに店内を歩き回り、
椅子に触ったり、鏡を覗き込んだり、
まるで探検隊のように動き回っている。
店主は鋭い目つきでその様子を見ていたが、
次の瞬間、ふっと笑った。
「兄ちゃん、元気じゃのう。
ほんなら、好きに歩き回ってええで」
お母さんは驚いた。
「えっいいんですか?」
店主はうなずいた。
「じっとできんのは、その子のせいじゃないけえ。
わしが歩きながら切るわい」
歩きながらのカットが始まる
男の子は店内を自由に歩き回り、
店主はその後ろを追いかけながら、
少しずつ、少しずつハサミを入れていく。
チョキン
男の子が振り返る。
店主はすかさず前髪を整える。
スタスタ
男の子が椅子の後ろに回る。
店主はその隙に横を切る。
お母さんはハラハラしながら見守っていたが、
店主はまるで長年の相棒を扱うように、
落ち着いて、優しく、丁寧にハサミを動かしていた。
そして、いつの間にかかっこいい髪型に
気づけば、男の子の髪はきれいに整っていた。
男の子は鏡を見て、目を輝かせた。
「かっこいい!」
お母さんは涙ぐみながら言った。
「本当にありがとうございます。
こんなふうに切ってもらえたの、初めてです」
店主は照れくさそうに言った。
「兄ちゃんは兄ちゃんのままでええんよ。
じっとできん子は、意外と多いけえの。
困っとる親御さん、今もどこかにおるじゃろうなあ」
その言葉には、
長年いろんな人を見てきた店主の優しさがにじんでいた。
そして店主は今も言う
「子どもは動くもんじゃ。
動くなら動くで、切り方を変えりゃええだけよ」
南区の小さな理容院には、
今日もそんな誰かを救う小さな優しさが静かに積み重なっている。

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