店主の工夫、思わぬ誰かを救う:南区の小さな理容院で起きた、小さな奇跡の連鎖
店主が、あの女性のために、触れずに切れる道具や女性が安心できるケープ・香りの弱いシャンプーなどをそっと準備してから、数週間が経った。その間、女性が店に来ることはなかった。店主はそれでも、道具を片付けることなく、いつでも使えるように整えていた。(このお話しはフィクションで、登場する場所・人物ともに関係はありません ^^)
店主の工夫、思わぬ誰かを救う
「来んでもええんよ。
でも、来たときに困らんようにしとくだけじゃ」
そうつぶやきながら。
ある日の午後、思わぬ来客があった
その日、店主が鏡を拭いていると、
店のドアがそっと開いた。
入ってきたのは、
30代くらいの女性と、その娘さん。
娘さんは小学生くらいで、
店に入るなり、少し不安そうに母親の袖を握っていた。
母親は申し訳なさそうに言った。
「すみません
娘が美容院が苦手で、
男性の美容師さんも怖がるんです。
でも、髪がどうしても伸びすぎてしまって」
店主は、ふと胸の奥がざわっとした。
(あの女性と同じじゃの)
娘さんは、店主を見ると固まった
娘さんは店主の顔を見て、
さらに母親の後ろに隠れた。
店主は自分の鋭い目つきを思い出し、
苦笑いした。
「兄ちゃんいや、姉ちゃんか。
怖がらんでええよ。
わし、噛みつかんけえ」
母親は困ったように笑ったが、
娘さんはまだ緊張している。
店主、そっとあの工夫を使う
店主はゆっくりと店の奥へ行き、
あのとき準備した
柔らかい女性用ケープを持ってきた。
「これ、肌に優しいけえ。
チクチクせんよ」
さらに、
香りの弱いシャンプーを手に取り、
娘さんにそっと見せた。
「これ、匂いがほとんどせんのんよ。
嫌じゃなかったら、使ってみるかの」
娘さんは少しだけ顔を出し、
ケープを触ってみた。
その瞬間、
ほんの少しだけ表情がゆるんだ。
母親が驚いたように言った。
「こんなに落ち着いたの、初めてです」
触れないカットが役に立つ
店主は、あの女性のために練習していた
距離を保ちながらのカットを試した。
娘さんの後ろに立たず、
横から、鏡越しに、
できるだけ手が触れないように。
チョキチョキ
娘さんは最初こそ緊張していたが、
次第に落ち着いていった。
母親は涙ぐみながら言った。
「こんなふうに切ってもらえたの、初めてです
本当にありがとうございます」
店主は照れくさそうに鼻を鳴らした。
「わしはただ、
触られたくない人のための切り方を
ちょっと練習しとっただけじゃ」
帰り際、母親が言った言葉
母親は深く頭を下げた。
「店主さん
あなたの工夫が、うちの子を救ってくれました」
店主はゆっくりと首を振った。
「救ったんじゃない。
わしが準備しとっただけじゃ。
救ったんは、姉ちゃん自身じゃ」
娘さんは小さく手を振って帰っていった。
そして店主は今も言う
「あの女性のために用意したもんが、
別の誰かの役に立つこともあるんじゃの。
人の縁は、不思議なもんじゃ」
南区の小さな理容院には、
今日もそんな静かな優しさの連鎖が
そっと積み重なっている。

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