店主、迷える子どもに寄り添う:南区の小さな理容院で起きた、忘れられないカットの日(2)

 あの日の少年が、大人になって帰ってきた。あれから十数年。南区の理容院は相変わらず静かで、店主はヨレヨレタオルを畳みながら、「今日もぼちぼちやるかのう」とつぶやいていた。そこへ、店のドアが開いた。「こんにちは。覚えてますか?」店主が顔を上げると、そこには背の高い青年が立っていた。(このお話しはフィクションで、登場する場所・人物ともに関係はありません ^^)

店主、再会する

どこか見覚えがある。

しかし、すぐには思い出せない。

青年は少し照れくさそうに笑った。

「昔、歩き回りながら髪を切ってもらった子どもです」

店主は目を丸くした。

「おお、あの兄ちゃんか!」

あの頃の話を笑いながら

青年は椅子に座りながら言った。

「母がよく言ってました。

どこに行っても断られて、

最後に店主さんに救われたって」

店主は照れくさそうに鼻を鳴らした。

「わしはただ、

兄ちゃんが動くなら動くでええと思っただけじゃ」

青年は笑った。

「でも、あの日のこと、ずっと覚えてました。

動いてもいいんだって言われたの、

あれが僕にはすごく嬉しかったんです」

店主はハサミを持ちながら、

少しだけ目を細めた。

「そうかそう言ってもらえると、

わしも嬉しいの」

今度はじっと座っている青年

店主がハサミを入れ始めると、

青年は驚くほど静かに座っていた。

「兄ちゃん、今日は歩き回らんのか」

青年は笑った。

「もう大丈夫です。

でもあの頃の僕を切ってくれた店主さんは、

本当にすごかったと思います」

店主は肩をすくめた。

「子どもは動くもんじゃ。

動くなら動くで、切り方を変えりゃええだけよ」

そして、青年のもうひとつの理由

カットが終わり、青年は鏡を見て満足そうにうなずいた。

「実は今日来たのは、もうひとつ理由があって」

店主は首をかしげた。

青年は少し照れながら言った。

「僕、今度、子ども向けの

支援の仕事を始めるんです。

あの頃の自分みたいな子を助けたくて」

店主はしばらく黙っていたが、

やがてゆっくりとうなずいた。

「兄ちゃん立派になったのう」

青年は笑った。

「店主さんのおかげですよ」

別れ際、店主の昭和ジョークが炸裂

青年が会計をしようとすると、

店主はいつもの調子で言った。

「ほんなら1500万円じゃ」

青年は吹き出した。

「子どもの頃から変わらないですね」

店主はニヤリと笑った。

「わしは変わらんよ。

兄ちゃんが変わっても、ここは変わらん」

そして店主は今も言う

「あの兄ちゃん、昔は店中歩き回っとったのに、

今じゃ子どもを助ける仕事しとるんじゃけえ。

人は変わるもんじゃのう」

南区の小さな理容院には、

今日もそんなつながりの物語が静かに積み重なっている。

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