店主、昭和の終わりに走り抜けたドタバタ開業物語

今から何十年も前、世の中が「土地は持ってるだけで値上がりする」と本気で信じられていたバブル期。広島の街も例外ではなく、南区のあちこちで新しいビルが建ち、景気のいい話が飛び交っていた。(このお話しはフィクションで、登場する場所・人物ともに関係はありません ^^)

バブルの風に乗って開店!

そんな時代に、ひとりの大柄な男が立ち上がった。

そう、あの理容院の店主である。

「わしも何かせんといけん!」

バブルの風にあてられた店主

突然の決意はいたしかたない。

当時の店主はまだ若く、体格は今と変わらず大柄で、目つきは今よりさらに鋭かったらしい。

ある日、友人たちが口々に言った。

「株で儲けた」

「土地買うたら倍になった」

「車はローンでええやろ」

その勢いに押され、店主は胸を張って宣言した。

「わしは……理容院を始める!」

周囲は驚いた。

なぜなら店主は、当時まだ理容師免許を取ったばかりで、経験も浅かったからだ。

しかしバブル期の空気は、人を妙に強気にさせる。

店主は勢いのまま、南区の小さな空き店舗を借り、鏡と椅子を2つだけ置いて開業した。

開店初日、まさかの客ゼロ

開店初日。

店主は新品の白衣を着て、鏡の前で腕を組んで待っていた。

しかし――

誰も来ない。

1時間経っても、2時間経っても、誰も来ない。

店主は焦り、店の外に出てみた。

すると、向かいのコインランドリーが立つ前の広場でおばちゃんたちが井戸端会議をしている。

「なんか怖そうな人が店開けとるねえ」

「目つきが鋭いけえ、入りにくいわあ」

店主はショックを受けた。

「わし、そんなに怖いかの……?」

バブルの勢いで宣伝作戦開始

落ち込んでばかりはいられない。

店主はバブルの勢いに乗り、宣伝に走った。

  • 手書きのチラシを100枚配る
  • 近所の子どもにラムネを配る
  • なぜか店の前で腕立て伏せをしてアピールする

その結果――

「なんか面白そうな店ができたらしい」

と噂が広まり、少しずつ客が来るようになった。

そして伝説の1500万円ジョークが誕生する

ある日、初めて来た若い客が、おそるおそる聞いた。

「おいくらですか……?」

店主は緊張をほぐそうと、昭和のノリでこう言った。

「千五百万円です」

客は一瞬固まり、次の瞬間、爆笑した。

その笑い声が店の外まで響き、通りがかった人が興味を持って入ってくる。

こうして店主の昭和ジョークは、理容院の名物になった。

バブル崩壊しかし店主は揺るがない

やがてバブルは弾け、街の勢いも落ち着いた。

豪華な店が次々と閉店する中、店主の理容院は変わらず1500円のまま。

「景気がどうなろうが、髪は伸びるけえの」

その言葉どおり、店主は淡々と、しかし楽しそうにハサミを動かし続けた。

店主は71歳になった今も、鋭い目つきと人懐っこい笑顔を併せ持ち、

あの頃と変わらないテンションでジョークを飛ばしながら、誰かの髪を整えている。

バブルの勢いで始めた理容院は、

気づけば地域の人に愛される昭和の香りが残る場所になった。

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