ハサミと汗と昭和の根性:店主、若き日の修行時代ドタバタ物語

今でこそ南区の小さな理容院で、鋭い目つきと人懐っこい笑顔を武器にハサミを振るう店主だが、若い頃はもっと荒削りだったらしい。「わし、最初はハサミの持ち方すら怪しかったんよ」と、店主はよく笑いながら言う。(このお話しはフィクションで、登場する場所・人物ともに関係はありません ^^)

修行先の店主に言われた衝撃のひと言

店主が弟子入りしたのは、昭和の香りがぷんぷん漂う理容店。

そこには、厳しいが面倒見のいい師匠がいた。

初日、店主は緊張しながら自己紹介をした。

すると師匠は店主の大柄な体と鋭い目つきを見て、こう言った。

「お前さん……理容師より、用心棒のほうが向いとるんじゃないか?」

店主はショックを受けた。

しかし、ここで引き下がるような性格ではない。

「わしは髪を切りたいんじゃ!用心棒はせん!」

その勢いに押され、師匠は苦笑しながら受け入れた。

シャンプー地獄の日々

修行時代の最初の仕事は、ひたすらシャンプー。

しかし店主は手が大きすぎて、力加減が難しい。

ある日、常連のおじいさんが言った。

「お兄ちゃん、洗うんはええんじゃが……頭皮が取れそうなんじゃ」

店主は慌てて力を弱めたが、今度は弱すぎて泡が立たない。

「わし、シャンプーだけで半年は怒られとったわい」

と、店主は遠い目をして語る。

モデルカットで起きた悲劇

理容師免許の実技試験に向けて、店主はモデルカットの練習を始めた。

友人を呼び、意気揚々とハサミを構える。

しかし――

緊張のあまり、手が震える。

「おい、なんか不安なんじゃけど」

と友人が言うが、店主は

「大丈夫、大丈夫」

と強がる。

結果、友人の前髪は左右で2cmほど差がつき、昭和の漫才師のような仕上がりに。

友人は鏡を見て絶句したが、店主は必死にフォローした。

「これは……新しいスタイルじゃ!」

もちろん、友人には二度とモデルを頼めなかった。

それでも店主はあきらめなかった

失敗しても、怒られても、笑われても、店主は毎日店に立ち続けた。

  • 朝は誰より早く来て掃除
  • 夜は最後まで残って練習
  • 休みの日もウィッグ相手にハサミを動かす

師匠はそんな店主を見て、ある日ぽつりと言った。

「お前さん、不器用じゃが……根性は本物じゃの」

その言葉が、店主の胸に深く刺さった。

そしてついに、理容師免許取得

試験当日、店主は緊張で手が震えながらも、これまでの努力を思い出し、なんとかやり遂げた。

結果は――

合格。

店主はその瞬間、思わずガッツポーズをしたらしい。

帰り道、嬉しさのあまり、知らない人にまで、

「わし、受かったんよ!」

と話しかけたという。

若き日の努力が、今の店主をつくった

今、店主が鋭い目つきでハサミを動かしながらも、どこか優しいのは、

あの修行時代の汗と失敗と笑いがあったからだ。

「わしは器用じゃないけえ、努力でなんとかしてきたんよ」

と店主は照れくさそうに言う。

その言葉を聞くたびに、私は思う。

この理容院のハサミには、昭和の根性と人情が詰まっている。

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